武田氏関係史料の刊本について

 武田氏に限らず、歴史研究を行う際に、重要なことは、良質な史料に拠ることでしょう。ここでは、史料を古文書史料に限定して、話を進めていきます。



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まず古文書を目にする機会というのは、あまりありません。博物館で見たりすることがほとんどでしょう。研究者などは、所蔵先に出向いて、そこで調査を行うこともあります。個人所蔵の場合は、見せてもらうことができないことが多々あります。

原物を見ることのできない場合は、それに準ずる方法を取ります。一つには、写真があります。最近の史料集には写真が載っていることもありますので、そういった写真を日頃から集めておきます。図録なども貴重です。また一つには、影写本を見ることです。影写とは、文書そのままに写し取った複写物です。影写本と言うと、一般的に東京大学史料編纂所で架蔵しているものを言います。同所では、全国の史料を採訪していますので、ここに目的の史料があれば、見に行って確認することができます。利用については、同所のホームページを参照してください。この影写本は、学会では原本に準ずるものとされています。

古文書を見るということは大変な労力を伴います。ですから、普通は古文書を活字化した本を参照することになります。これを刊本と言っています。武田氏関係の刊本には、幸いなことに近年相次いで完結した史料集が出ています。『戦国遺文 武田氏編』と『山梨県史』です。

『戦国遺文 武田氏編』は、全6巻出ており、編年順に史料が並んでいます。編年順とは、年月日順ということですね。史料も網羅されており、検索には非常に都合のよい本です。しかし、編年順には、ちょっと気を付ける点もあります。古文書には、書状のような手紙の他に、知行宛行状(ちぎょうあてがいじょう、ちぎょうあておこないじょう)などのような支配文書があります。支配文書の場合には、内容の効力を発揮する年が書かれますが、書状には月日のみで年は書かれません。ですから、書状については、年次比定と言って何年に出されたものなのかを確定していく作業が必要になります。これは、研究状況から比定年が変わることもあるため、刊本により年次が異なっている場合があります。そのような書状を探す時には、該当しそうな数年間をめくって探す必要が出てきます。

『山梨県史』は、資料編4県内文書、資料編5県外文書(上下の2分冊)、資料編6県内・県外記録(上下の2分冊)に分かれ、計5冊が該当します。こちらは、所蔵者別になっています。所蔵者別には、長所があります。例えば、文書の宛先となった人物がどのような文書を受け取っているのかを容易に通覧でき、その人物の立場などを考える際に役立ちます。上杉氏研究ではバイブルとも言える『新潟県史』も同様な所蔵者別を採用しています。

所蔵者別は、実際には使いにくいものです。なぜならば、中世史では、史料を編年順にまず並べるという作業が前提だからです。ある程度、その編年化作業を終えてから、あらためて『山梨県史』のような所蔵者別史料集を利用しようとすると、かなり面倒なことになります。検索手段は、所蔵者になるのですが、史料集によって所蔵者が違う場合があります。古文書は動産ですから、譲渡によって移動する場合があります。また、従来では写しでしか知られていないかったものが、のちに原物が発見されたような場合。また、写しでも、刊本により異なる写本(出典)から採録している場合など、さまざまな要因があるのです。ですから、所蔵者別を採用している刊本は、普通編年順の目録を載せています。『新潟県史』にも載っています。しかし、『山梨県史』にはありません。解説によると、紙幅の関係で掲載できず、通史編に掲載する予定とのことです。しかし、別冊でもいいから付けて欲しかったと思います。

短所はありますが、『山梨県史』は信頼のおける史料集です。1点ごとに注記があり、年次比定の根拠や、真偽の判断などの情報が大変有益です。もちろん、注記は編者の意見であるので、それが絶対ではありませんが。今後の武田氏研究では、基礎となる文献でしょう。

追記最近、『山梨県史』の通史編を買いました。文書目録のCDが付いています。これが、例の編年目録であろうと思って見ましたが、そうではありませんでした。ですが、単純な手直しで、編年化ができます(作業は大変ですが)。