論文の書き方:本文

論文の書き方

卒業論文などの作成に悩んでいる方のために、参考となれば幸いです。

目次

はじめに
史料について
何を書くのか(テーマを選ぶ)
論文を集める
研究史を整理する
論文の構成
注の書き方
推敲する
その他

はじめに

歴史学は、証拠史料にもとづいて実証されることにより、歴史科学とも言われます。証明された事実を積み重ねたものが歴史となります。

よって重要な点は、どのような史料を扱い、そこからどのような事実が導き出されるのかということになります。

史料について

証拠となる史料にはどのようなものがあるのでしょうか。

史料には、大きく分けて①同時代史料、②後世の編纂物があります。前者には、古文書・古記録などがあり、後者には軍記物語などがあります。

①「同時代史料」とは、証明しようとする時代に作成された史料です。もっとも信用度の高い、まず一次的に依拠すべき史料となります。

②「後世の編纂物」は、ある程度時代が下った時期に書かれたもので、その記述内容はドラマティックで面白いですが、推測や憶測を多分に含んでいることから、一般的には参考程度の使用にとどめる資料となります。

また、系図などは、時代ごとに書き継がれたもの以外は、後世に一度に作成されたものが多く、とくに江戸時代には偽系図作りを専門とする者もいて、信用度は概して低いです。

以上をまとめると、次のようになります。

同時代史第一次史料) > 後世の編纂物(第二次史料) > 系図(第三次史料)

ここでは、古文書や古記録(日記など)のように文字史料を中心とする「文献史学」の立場で、取り扱う史料の重要度をみたものです。

絵画史であれば、当然一次史料は絵画ということになるでしょう。また、考古学では考古資料(埋蔵物、遺跡など)が、民俗学では風俗や民具資料が一次史料となります。文献史学も考古学も民俗学も固有の史資料を用いて歴史や文化を明らかにする学問です。よって、それぞれの分野・立場でどのような史料をもとに歴史を証明していくかは変わってきます。

史料は、残すべくして残されてきたものです。

現代でも、必要のない書類・手紙類は破棄するように、時々の作為が働いていることを忘れてはなりません。

また、歴史は勝者の歴史とも言われるように、後世の者が都合の良いように歴史をつくるため、史料を選別・改竄していることも考慮に入れる必要があります。

一次史料とされる古文書についても、以上のことを念頭に置いておく必要があります。有名な上杉氏と武田氏との間で戦われた川中島の合戦でも、両者とも勝ったかのように文書に記しています。

同時代史料においても、都合の良いように文書を作成しているため、一点の史料よりは、関連する史料を検討し、傍証をなるべく増やすことが望まれます。

史料の中身を検討し、それが事実を伝えているのかどうかを判断することが、論文を作成するうえで重要な作業となってきます。これが史料批判です。

例えば江戸時代初期に将軍徳川家周辺で編纂された資料類には、「徳川中心史観」とも言える編纂方針がうかがえます。現在の研究では、そのことを踏まえながら研究が進められています。

よって、取り扱う史料が、どのような立場の者が、どのような状況で作成したものであるかを念頭に置く必要があります。

何を書くのか(テーマを選ぶ)

まず、自分の問題関心がどこにあるのかを明確にする必要があります。

自分は何に興味があるのか、なぜそのテーマを選んだのかということです。別に何でも良いです。そのテーマが歴史学会において重要な問題なのかどうかは、二の次です。自分がおもしろいと思ったテーマを探しましょう。

次に、問題関心(テーマ)にそって、問題関心を共有していそうな先行論文を集め、並行して史料を収集していきます。

自分が明らかにしようと考えていることが、何十年も前に論文化されていることもあります。

反対に、まったく先行論文が無いか、あってもごくわずかな場合もあります。この場合、史料があまりにも少ないことが原因かもしれません。もしくは、前人未踏の分野かもしれません。やりがいはありますが、十分な時間が無ければ、そのようなテーマは避けた方が良いかもしれません。しかし、もし誰も気づいていない、取り上げていない史料を発見しているのであれば、挑戦してみても良いでしょう。

論文を集める

論文を集めていくのは難しいと思う人が多いですが、そうでもありません。

問題関心(テーマ)を定めた人はテーマに関連する図書を何も読んでいないことはまずないと思いますので、今まで手に取った本や論文の参考・引用文献に注意し、それらを集めて目を通していきます。

これを繰り返していくと、芋づる式に大抵の先行研究の存在は押さえられるはずです。

手に入りにくいもの(郷土史関係)は、地元の県立図書館レベルで博捜するしかありません。また、都道府県での主要な研究会機関誌に目を通すことと、テーマに関係する地域の自治体史には必ず目を通した方が良いでしょう。自治体史とは、都道府県や市町村が刊行している『〇〇県史』『〇〇区史』といった歴史の本です。

現在は、国立国会図書館の蔵書を検索すれば大抵の文献は調べることができます。さらに利用者登録をしていれば、国会図書館に行かなくてもコピーを取り寄せることが出来ますので、ぜひ利用してみて下さい。

国立国会図書館

研究史を整理する

次に集めた論文(先行研究)を読破し、発表された年月日で時系列的に並べていき、研究史を作成します。

論文を読むのは、初めのうちはきついかもしれません。難解な用語や、史料が出てきて挫折してしまうかもしれません。

そんな時は、一般的な本を先に読みましょう。時代背景や人物像が予備知識として頭に入っていればより理解しやすくなるでしょう。

まずは、通史を読むことをおすすめします。通史は、時代を通覧して叙述している本です。各出版社から出ていますが、取り上げる地域が定まっているならば、県史や市町村史の通史編を読むと良いでしょう。

例えば、戦国大名今川氏についてであれば『静岡県史』、織田信長であれば『愛知県史』などの通史編が参考になるでしょう。

また、最近は新書で相当数の歴史本が出ていますので、テーマに触れるようなものは目を通してみても良いでしょう。

人物をテーマに据えるのであれば、伝記も良いでしょう。

なお、論文読破のために、用語辞典や年表は手元に置いておいた方が良いです。

さて、研究史整理は自分の問題関心に沿って行います。

研究史を踏まえると、どのような史料を用いているのかが分かってきます。

最初の頃は、史料を先に読んでいることはあまりないと思いますので、先行研究で用いている史料をまず集めましょう。

しかし、決して論文中の史料をそのまま引用してはいけません(ただし新発見の史料を紹介しているような場合は別です)。いわゆる孫引きとなるからです。また、もしかしたら引用史料に誤字脱字があるかもしれません。

史料は、文書集や先ほどの自治体史の資料編などから集めていくこととなるでしょう。また写真なども入手した方が良い場合もあります。

研究史を見ていくと、現在までに何が明らかにされているのかがわかってきます。ですから、まだ明らかにされていないことや、史料解釈がおかしくてその結果導き出された結論が誤っていると考えれば、再検討をする必要があることがわかります。

ただし、注意したいのは、先行研究を批判する場合、その先行研究を尊重する態度を保つことです。研究とは、積み重ねられて進んでいくものですから。

また、事実の発見や、考え方について、最初に誰がそこにたどり着いたのかを押さえることは大事です。しかし、この頃は、研究史をまともに整理せず、最近に発表された論文のみに目を通して、それで済ましてしまう論文が多くなったように見受けられます。

これは危険です。

というのは、最新論文が正しく先行研究を批判して、新しい実証結果を提示しているのかは、その最新論文の先行研究に目を通さないと判断できないからです。研究史整理というのは、すべてに目を通して、どちらが是か判断することです。これを怠ると、誤った実証結果を土台として、自分の論文を執筆してしまうことになります。

研究史の検討によって、自分の書くべき論点が明確になり、明らかにしようとすることが研究史にどのように位置づけられるのかがはっきりするでしょう。

以上の作業をまとめ、論文の「はじめに」で必ず、テーマ(問題関心)、テーマに関する研究史の検討とその問題点、そして自分の論文で何を明らかにしようとするのかという点をはっきり書く必要があります。

論文の構成

論文は、かつて作文の時間で習ったように、三段論法(序論・本論・結論)で書きます。多いパターンは、①はじめに②本論③おわりに(むすびにかえて)と書いていきます。

①「はじめに」で書くことは、あらためて前述をまとめると次のようになります。

・この論文の問題関心(テーマ)が何であるか。
・先行研究ではどこまでが明らかにされているか。
・先行研究にはどこに問題点があるのか。
・問題点について、この論文はどのようにアプローチして何を明らかにしようとするのか。

②「本論」は分かりやすいように、何章何節かに分けてタイトルをつけましょう。

章タイトル → 節タイトル → 見出し → 小見出し

上記のような構造になると思います。章レベル以下は当然複数になると思いますので、系図のように枝分かれしていくことになります。

以上をまとめると次のようになるでしょう(そのまま目次にもなります)。

はじめに
第1章 〇〇〇〇〇
  第1節 〇〇〇〇〇
   ~
  第〇節 〇〇〇〇〇
第2章 〇〇〇〇〇
  第1節 〇〇〇〇〇
     ~
    第〇節 〇〇〇〇〇
第〇章 〇〇〇〇〇
  第1節 〇〇〇〇〇
   ~
  第〇節 〇〇〇〇〇
おわりに

いきなり40枚程度の長文を書き出す人はそうそういないと思いますので、まずノートやカードなどに史料ごとの解釈や検討した結果を列記していき、それぞれを関連づけていったり、時系列に並べ替えたりするなど操作を試行錯誤していくと、何となくまとまりがいくつか出来るでしょう。それらのまとまりを更に並べていくと節が出来、さらに章の順番が定まっていくと思います。

ですから、長文である論文の場合は、なるべく小さい単位で検討していった方が結果的に書きやすくなると思います。そして、構造が定まったら、脈絡に破綻のないように気をつけて文章化していきます。

「おわりに」で、本論で検討した結果をまとめます。

とりあえず本論が書き終わったら、結論の文章化に進みます。「おわりに」「むすびにかえて」とかいろいろな書き方があります。

なかには本論で結論を章ごとに書いている人もいるかもしれません。その場合でも、紙幅に制限が無ければあらためて結論で書いた方がいいでしょう。分かったこと、分からなかったこと、そして展望を書きましょう。

論文は、極論すると、「はじめに」と「おわりに」を読めば、研究史における問題点(課題)を知り、その解答を得ることができるものです。ただし、その解答は本論において史料(証拠)にもとづく実証がなされていなければいけませんが。

注の書き方

引用、あるいは典拠とした史料や文献については、「おわりに」の次に「注」としてまとめて書きます。掲載雑誌にもよりますので、雑誌の投稿規定に従ってください。卒論では指導教授や学校の規定があるでしょう。

注は「註」と書く場合もありますが、典拠とした史料、引用した参考文献などは、必ず読んだ人もその史料や文献にたどりつけるように注で明示しなければなりません。

が無いものは論文として扱われません。

注は、一般的な縦書きの日本史論文であれば、文章中の注を付ける右脇に(1)、(2)、(3)と連番で注番号を付けていき、本文末に(1)●●●、(2)●●●、(3)●●●、・・・というようにまとめます。

あらためて論文の構造を示すと次のようになります。

はじめに
第1章 〇〇〇〇〇
  第1節 〇〇〇〇〇
   ~
  第〇節 〇〇〇〇〇
第2章 〇〇〇〇〇
  第1節 〇〇〇〇〇
     ~
    第〇節 〇〇〇〇〇
第〇章 〇〇〇〇〇
  第1節 〇〇〇〇〇
   ~
  第〇節 〇〇〇〇〇
おわりに

(1)●●●
(2)●●●
(3)●●●
 ~

ですから、最初から注も書いてしまうと、途中で文章を入れ替えたり、注を追加削除などして注の順番が変わった場合、文末の注の番号も対応して変更しないといけなくなり、結構面倒なことになります。

私の場合は、最後まで注は書きません。

そのために本文では、典拠・引用した史料や文献がある場合には、その文章の文末に(●●●・・・)と史料や文献名を書いておきます。この時、注に書くべき情報はすべて書いておきます。こうしておけば、たとえ文章を組み替えても大丈夫ですし、また注を付けるべき史料や文献を忘れることがありません。後からだと、結構忘れるんですね。また、書くべき情報は目を通している段階で押さえておけば、また見返す手間を省けます。

推敲が終われば、論文の最初から順番に(●●●・・・)を文末の注に移して、連番を付けていきます。パソコンだからできる手法ですね。

注に書くべき情報とは

史料の場合:
文書名(刊本名、文書番号)

(例)上杉家文書(『新潟県史』資料編3中世1、394号)
これは、『新潟県史』資料編3中世1に載っている394号の上杉家文書ということで、本文ではこの史料について言及していますよという注になります。読者は、本文の叙述を検証する時には注により該当の古文書にたどり着くことができるわけです。

論文の場合:
執筆者名「論文名」(所収雑誌あるいは本のタイトル、巻号数、刊行年)

(例1)岩沢愿彦「越相一和について-「手筋」の意義をめぐって-」(『郷土神奈川』14号、1984年)
(例2)栗原修「上杉・織田間の外交交渉について」(所理喜夫編『戦国大名から将軍権力へ』吉川弘文館、2000年)
(例1)は雑誌に載っている場合の書き方、(例2)は本に載っている場合の書き方となります。

また、雑誌に載っていた論文が後になって個人などの論集に収録されることがあります。その場合は次のような書き方があります。
(例3)栗原修「戦国大名上杉氏の上野国沼田城支配-沼田在番衆を中心に-」(『駒沢史学』46号、1993年。後に「上杉氏の沼田城支配と在城衆」と改題して同著『戦国期上杉・武田氏の上野支配』岩田書院、2010年に収録)
(例3)は、『駒沢史学』に掲載された栗原論文が、後にまとめられた同著に収録されたことを示しています。収録された時に論題が改められたこともわかります。

研究史としては、雑誌で論文が発表された1993年が初出年として重要ですが、著作に収録されるまでの17年間に研究の進展などにより内容が変わっている場合もあります。ですから雑誌だけではなく、その後に刊行された著作も目を通す必要があることになります。

以上が一般的ですが、様々なケースがあるので他の論文も参考にするとよいでしょう(オーソドックスなスタイルの書き方をしているものを選ぶこと)。

なお日本史のように縦書きの場合は、算用数字ではなく漢数字になります(ここでは横書きなので算用数字にしてあるだけです)。

推敲する

とりあえず書き上げたら何度も推敲しましょう。

できればプリントアウトして赤ペンで修正していきましょう。パソコンの画面上で推敲する人もいますが、経験上私はおすすめしません。

推敲作業を繰り返すうちに自分の文章に飽きてくると思います。しかし、内容もそうですが、誤字脱字が無いようにすることも大事ですので、粘り強く行う必要があります。

文系の論文で誤字脱字があることは、理系の論文で数式が間違っていることと同じですので、論文の信用に関わってくるからです。

言い回しや語句の使い方、資料の引用なども、今一度点検しましょう。不安な点は確認して確実なものにしていきます。

また論文は他人に読んでもらうものなので、平易な文章にすることを心がけましょう。類語辞典などが助けになります。くどい言い回しは避けて、どう読んでも誤解されない明確な文章に仕上げていきましょう。

卒論の場合、指導の先生は専門分野以外の論文を何本も読まなければならないので、すっきりした文章であれば頭に入りやすく、的確な評価を下すことができるのです。まわりくどくて何を言いたいのか分からない論文を読むことは苦痛ですからね。

その他

とにかく論文は、史料にもとづいて実証していくことが大事です。史料を解釈してもはっきりしないことも多くあります。その場合は、推測であり、あくまでも可能性があるということにとどまります。

ところが、まま見受けられるのは、史料を検討した箇所では推測なのに、途中で断定に変わっている叙述の仕方がみられることです。これは避けたいですね。その時点で分からないことは不明としておくしかありません。

先行研究を引用した場合は、引用であることを明確にすることが大切です。かつ、引用論文を注記することも必要となります。よくあるのは、他人が言っていることを自分の意見として書いてしまうことです。これは、盗用となります。

引用の仕方(いろいろありますが)
原文の引用は「   」でくくる。たとえ原文に誤字があっても直さない。
要約する場合は、ニュアンスを違えずにまとめ、注を付けること。

史料の引用は、あった方が良いです。紙幅の関係で載せられないこともありますが、なるべく重要度の高いものは載せるべきと思います。

近年、文書を網羅的に収集し、総体的に検討するというスタイルが多くなってきています。これは、東国大名研究に多く見られます。史料の取り上げ方には、自分に都合の良いように取捨選択をすることがありますが、それ以外の史料の存在を周知させるためにも、文書目録の掲載は良いのではないかと思います。

最近の雑誌では30~40枚(400字詰め原稿用紙)というのが多いようです。なかには80枚というのもありますが、例外でしょう。30枚以下は研究ノートの扱いになることが多いですが、この分け方が何に拠っているかは分かりません。論文の価値は、枚数の多さではなく、引用される回数だと思います。

以上、私なりに思いついたことを書いてみました。

参考文献

         
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